【26号 社会人の今】フリーアナウンサー 原田裕見子さん
社会人の今
今も輝き続ける静岡県立大学の卒業生が私たちにメッセージを送ります。
原田裕見子さん
フリーアナウンサー/ スピーチコンサルタント
静岡県浜松市出身
静岡県立大学国際関係学部卒業
元静岡朝日テレビアナウンサー
元東海ラジオニュースアナウンサー
元CBCラジオ「朝PON」アシスタント
趣味はお酒に合う料理作り、旅行
――アナウンサーという仕事の魅力を教えてください。
自分の目で見て取材し、わかったこと・感じたことを言葉に置き換えて、多くの方にわかりやすく情報として届けられることです。私がリアルに会える人の数は限られますが、テレビやラジオ、そして今、インタビューを受けているズームなどで多くの方と繋がることができます。届けた情報が、皆さんの中で「へー」「そうなんだ!」という発見になったり、忙しい暮らしの中の束の間のリフレッシュになればという想いで伝えています。静岡朝日テレビ時代、旅リポートの仕事が多く、病気で入院している方から「わたしの代わりに裕見子さんが旅をしてくれているようで元気が出る」とファクスをいただいたり、結婚を機に静岡を離れ今は名古屋にいますが、名古屋のラジオでしゃべって、「昔、静岡に住んでいて、あの静岡の原田さんではないですか!」なんてメールをいただいたり、双方向の温かいコミュニケーションが生まれる瞬間、「この仕事に携われて本当に良かった」と有難く感じます。
――相手に良い印象を持ってもらうにはどのような話し方をすればよいか、気を付けていることはありますか。
お互いがなるべくその人らしく話せる雰囲気づくりを心がけています。静岡朝日テレビ時代、新番組として「とびっきり!しずおか」が立ち上がり初代アシスタントに決まった時、パートナーを組むフリーアナウンサーの梶原しげるさんに会った開口一番、「そのままのあなたが一番だからね、そのままでやってね」と言われました。共演者、視聴者、インタビューや取材の相手、皆さんで言えば、面接やデートの場面で、お互いが固くなったりカッコつけていたら良いコミュニケーションを取るのは難しいですよね。だから、準備はしっかりしつつ本番ではリラックスして伝えるようにし、一緒にいる相手もリラックスしてしゃべりやすいような環境づくりをしていました。真面目な話の時も、直前に少し雑談を交えて場をほぐすように意識します。もう一つは、わかりやすく伝えること。自分が話したいことを好き勝手に話すのではなく、相手はどう話したら興味を持ってくれるかな?この表現、このたとえ話だったら響くかな?と、相手の視点に立って考え言葉に置き換えることも大切にしています。
――オンライン面接がある学生へのアドバイス、オンラインだからこそ話す際に気を付けなければならないことはありますか。
現在、オンラインでのスピーチや話し方指導もしていますが、映り方からきちんと戦略をもって臨んでほしいです。
映り方のポイント
- ライトを活用。(原田さんはデスクライトとリングライトを使用)
- 背景にも気を配る。
- 上から目線に見えないように、カメラはおでこかおでこよりも少し高い位置に。頭が画面から切れないようにする。
- パソコンの下に図鑑などの本を2冊ぐらい置いてかさ上げするのがオススメ。
- ズームの場合は、新規ミーティングの画面をを鏡代わりにして自分がどう映っているか確認する。
↓原田さんの場合
話し方のポイント
- 口角を上げる。
- 普段の2倍のテンションで。
- 棒読みにならないようにする。
- 早口は禁物。テキパキ話し、間も適度に取る。
一つ一つはちょっとしたことですが、画面での印象=その人の印象になるので、学生の皆さんも「自分がオンライン画面越しにどう見られるのか」を意識して就職活動に臨んでほしいと思います。
――先ほどアナウンサーの魅力について教えていただいたのですが、なぜアナウンサーになったのかを聞かせていただきたいです。
大学3年生の時、フィールドワークで静岡県内の在日ブラジル人と地域住民との関係を取材したのがきっかけです。当時、東京発のニュースでは上野公園を舞台にした在日外国人による犯罪といったネガティブなニュースが多く報道されていたのですね。あまり良いイメージが抱けない印象でした。そんな時に、フィールドワークで、静岡県西部地方にある大東町(現在は掛川市)に出向き、そこに暮らす在日ブラジル人と住民の関係についてアンケート調査などをしたところ、この場所では、ブラジルから来た方たちがうまく地域と共生していることがわかりました。その時、東京発の全国ニュースが全てではないことに初めて気づいたのです。私は浜松で生まれ育って大学も静岡県立大学だったので、生まれ育った静岡発のニュースや情報を伝えられる人になりたい、自分の目で見て聞いて見えてきたものを伝えたいと思うようになりました。
――話すときに緊張してしまって、上手く自分を出せなかったり、話せなかったりする時はどうしたらよいですか。
就職活動の面接でもアナウンサーになって最初の3年間も、常に緊張状態で大変でしたね。あがり症のアナウンサーだったと思います。そんな私から皆さんにお伝えしたいのは、「緊張は悪いものではない」ということです。緊張は、自分の力を最大限発揮しようと起きている身体の防衛反応です。緊張すると「どうしよう!」と慌ててしまいますが、当たり前だし、それで正しい!ぐらいに落ち着いて捉えましょう。むしろ、緊張なしに無防備な時の方が雑な発言や失言などをしてしまうのがニンゲンです。程良い緊張感があるからこそ、きちんと、相手を気遣った良いコミュニケーションとることができます。緊張を感じたら、「私の体が今日も頑張ろうとしているんだな」と自分をちょっと俯瞰して褒めてあげて欲しいです。
そして、この仕事で25年間様々な場面を経験し、失敗を重ねハッキリわかったことがあります。「悪い緊張」をして良いことは一つもありません。(笑) 「悪い緊張」というのは、「自分」に意識が向きすぎた状態のことです。「自分」が、「上手くやりたい」、「カッコよく見られたい」、「失敗したくない」・・・。いえいえ、大切なのは、「相手に届く」か、「相手に響く」かどうかですよね?皆さんの「らしさ」や「想い」や「考え」をカッコつけでなくノビノビと自然に語ることで相手にわかってもらえたら素晴らしいことではありませんか。「自分らしく」と言うと、勘違いしてぶっつけ本番でしゃべる方がいますが、それは違います。自分を見つめ深堀りしておく必要があります。スピーチや面接など人前で話す時、事前の準備が全体の8割といっても過言ではありません。テレビやラジオも同じです。自分の心や頭の中を「言葉化」する準備をせず緊張して終わってしまったら、聴き手は「何を言いたいのかよく分からなかったな」で終わってしまいます。準備をすることが、本番で緊張せずゆとりを持って臨める「お守り」になります。言葉化することで、自分がより明確にわかるようにもなります。ですから、面接などでは「これだけ準備したから大丈夫」と思えるところまで頑張っておいて、本番では自分を大きく見せようとせず、自分の想いが届いたら嬉しいなという素直な気持ちで臨むのが一番いいと思います。結局のところ、敵は緊張ではなく自分自身なのかな。緊張と向き合う自分をどう整えていくのかが大切だと思います。
――学生時代にしておくべきことはどんなことですか。
何にでもチャレンジしてほしいですね。寝る間を惜しんででも全部やってほしいぐらい。誰もが社会に出て気づくのですが、人生で一番時間も若さもあるのは学生時代です。まず、じっくり本を読んで欲しい。そして、今はコロナで制約がありますので、状況を見ながら、知らないもの・見たことのないものや場所に自分の足で出かけ、目で見て感じて考えて欲しいです。そしてイベントや集まりも難しい状況ではありますが、オンライン開催されるものに参加してみたりして、学生や社会人、地域の方、様々な立場の人と交わる経験をしてほしいなぁと思います。アルバイトも勉強もコロナ禍で思うようにいかないことが多々あると思いますが、あきらめずにチャレンジの道を探って欲しいし、卒業生皆、応援しています。
学生の皆さんに伝えたいのは、自分が動けば必ず何かが動き始めるということです。一つの行動が次のステージにつながります。ですから、「どうしようかな」と思うことがあったら行動に移してほしいです。分からなかったら「どうしたらいいか分からない」と周りに言ってみればいいし、困っていて自分で解決法が見出せなければ相談してみてほしい。人とのやりとりの中で新しい情報や価値観が見えてきて、心の中に風穴が開いたり、モノの見方に化学反応が起きます。それが皆さんを成長させてくれるんじゃないかな。私も友人、先輩、教授、はたまた学生課の方まで多くの方との言葉のやりとりが今につながっていると感じます。感受性豊かな心や若い吸収力がある今こそ、色々なことをして欲しいと思います。
――社会に出て役に立った学生時代の経験はどのようなことですか。
フィールドワークの経験は強烈でしたね。自分が伝える人になりたいと思うきっかけになりました。第二言語のタガログ語の仲間と剣祭でバザーを開催したことも「人と協力して目標を達成する」という良い経験でした。接客のアルバイトや新聞社での一日記者体験が実際の取材に役立っているなと感じたこともあります。静岡で就職したので、新人アナ時代に、上手くいかないな、疲れてしまったなという時、すぐに大学に行けたのは良かったですね。ゼミ教官の玉置先生に会いに行ったり、夜の芝生公園をうろうろしてみたり。大学は移転しない限り変わらずそこにあってくれるというすごく有難い存在です。自分の原点に戻れる場所という気がします。それだけ学生時代の経験が今の礎になっているのでしょうね。
――アナウンサーになるためにどんな準備をなさっていたのかを伺いたいです。
私は4期生。当時は地方の新設大学でOB、OGがあまりいなかったので、やれることは全部自分でやらなくてはという危機感に近い気持ちがありました。そこで、大学3年生の夏休みから、東京アナウンスアカデミー(当時)という専門学校に週に一度通いました。今でしたら情報はネットで調べ、レッスンはオンラインで受けることができますが、当時はマスコミ向け就職情報もアナウンサー養成レッスンも地方にはなく、東京まで自分の足で行かないと手に入らなかったのです。しかも学生でお金がないから、行きは学割を使って東海道線で片道3時間半かけて。帰りの新幹線が本当に豪華で快適に感じられました。(笑) 静岡だけにいてはダメだという気持ちが当時はありましたが、今はネットやオンラインの活用が、地方の学生にたくさんの可能性とメリットをもたらしてくれますね。そして、もう一つ。就活の面接に必要な情報を作文にまとめ、元新聞記者の教授にお願いして添削もしていただきました。自分を深堀りする作業として、とても勉強になりました。
――最後に学生へのメッセージをお願いします。
パワーを余すことなく使ってほしいなと思います。熱量高く何事も全力で面白がって4年間を過ごしてほしいです。静岡は、東京と名古屋、どちらからも新幹線で1時間という便利な場所にあって、豊かな自然や歴史のある街です。コロナ禍で働き方や生き方が問われる今、間違いなく地方の存在感は増していきます。静岡には、皆さんが学ぶ専門分野ごとに取り組める課題やテーマがたくさんあると思います。
また、大学が開学して30年。歴史が積み重なってきた今、在学生の皆さんが次にどんな活躍をしてくれるのか、卒業生皆が楽しみに、そして心から応援しています。一人一人が自ら動いて経験して考えて、そして広く物事を見つめる目を養ってほしい。今はコロナ禍でままならぬ世の中ですが、その中でできることを見つけ動く力こそが、皆さんを大きく成長させてくれると信じています。
(担当:福原・小柳出・八木)
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